書くザトウクジラ

人類の幸せから、仕事の愚痴まで。

パクチーメシのその先に②完結

 

 

(前回のあらすじ)

 

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(本編)

私のオーダーしたメニューは決してフォーなどではない。なのに、今一体、私の眼前で何が起きているというのか。海鮮焼き飯なのにパクチーが山盛りではないか。海なのに山ァ?なんとなく海と山というワードが混在し、なんとなく上手いこと言ったみたいになってるが当然そんな余韻に浸る暇もない。あぁ、先程までの空腹が嘘のようにみるみる引いてゆく。しかし、出されたものである以上、客は何らかのアクション(反応)を示さなければならない。ここは男らしく、ゆくことにした。ただ、パクチーは本当に無理なので申し訳ないが、箸でスタイリッシュに間引いていく必要がある。なかなか骨の折れる作業だ。もう十分、危険はないことを確認した上で文字通り焼き飯の部分だけを喰らう。うまい。何かは分からないが、異国のガーリックと異国のフライパンと料理人の腕と経験によって仕立て上げられたそれは、なかなかの上物であった。ふたくちめ、パクリ。ここで私はある一つの教訓を思い出した。" 人生は思い通りにいかないことのほうが多い " そう、私の人生の天敵はまだ焼き飯の中に僅かに残存していたのだ。" みじん切りされた茎 "に形を変えて。

 

今回の件で、ふだん自分がいかに より好みして食事をしているか が痛いほど分かった。好きなものを好きなように食べる。一見、人生をフルに謳歌しているようにみえる。しかしそれは実は ものすごくせまい箱庭に閉じ込められていることと同じなのだ。井の中の蛙、大海をしらず。逆に自分の世界を、可能性を自分で狭めているということだ。そして、今回これほどまでに無理をしてしまったが、どうやら体のほうは大丈夫のようだ。今のところ便秘などの被害は受けていない。異国料理であっても正常に腸内で消化されることにどこか安心を覚えた。それほど不安なら初めから異国料理など手を出さなくていいものを。

 

その後、店員は私の異常事態に気づいてか気づかずか、私の後ろの席の客には粛々とパクチーの可否について事前確認をしていた。接客マニュアルをたまたま忘れていたのか、私の箸の進まなさに勘づいてくれたのか。どちらにせよ、パクチーよ。お前にはなんの罪もない。

 

パクチーメシのその先に 完。