それはあるラジオで聞いた話。ある夫婦が結婚するとき、その妻は結婚の条件として一つ提示した。一年に一回だけ、私は別人になる。それが守れなければ、あなたとは結婚できない。
子供をもった今でも彼女は、一年に一回だけ全然ちがう土地へ行き、違う名前を使いホテルに泊まる。ホテルに泊まらない日もある。いずれにせよ、夫は妻の行く先すら訊いてはならないのだ。
思えば我々は、睡眠時間以外のすべてを「私」で居続けなければならない。それを強く強制させられている。これは人間なら絶対に受け入れなければならないものだ。会社の8時間、家の8時間すべて同じ「私」を演じ続けなければならないのだ。
そう考えると、今回の夫婦の話のほうがいくぶん自然に思える。むしろ、別人になることが一年に一回ということに控えめさすら覚える。
人は、逃げ出したいほど追い込まれなければ、何も捨ててはいけないのだろうか。そんなことないはずなのだ。彼女のような人生のほうがイキイキしていてドラマティックで、なによりクールである。