書くザトウクジラ

人類の幸せから、仕事の愚痴まで。

一年に一度だけちがう自分になる

 

 あるラジオで聴いた話。長年連れ添った夫婦。子供も二人いる。妻の方から提示された結婚の絶対条件がただ一つあった。それは、一年に一度だけ誰にも行き先を告げることなく遠くへ出ることだった。一度行ってしまった妻に対しては電話もメールもダメ。外出先から帰ってきた妻に対しても、一切の詮索をしてはいけないのだ。

 

 妻はふだん、二児の母親であり、夫の妻であり、社会で働く女性でもある。様々な役割があり、現実的なしがらみをもつ。そんな一切のしがらみを排除できるのが、その誰にも知られない特別な一日なのだ。彼女は全然ちがう土地へ行き、その都度生まれ変わるのである。

 

 この妻が意識的に行うのはこの一日だけかもしれないが、人間というのは普段からもっと、全然ちがう自分になりたがっているのかもしれない。卑近な例でいえば、カフェに行くこと。これも一種のいつもとちがう自分を作り出す行為だ。カフェに居る自分は、家でもない、職場でもない別の自分になれる。現実逃避というチープなものでもない。もっと高尚であり、生きるうえで必要なこととも言うべきだろう。

 

 いつもと違う場所に足を運ぶというのは、きっと、一番手軽にできる自己変革である。一年に一度といわず、隙あらばちがう自分になるのだ。寄り道ばかりだけれど、いろんな自分に生まれ変わり、その都度人生を再始動できる、そんな真の自由さをもった人生は絶対に愉しい。