昨日昼ごはんを食べていた。カツの専門店。麦とろカツ膳を注文し、待ち詫びていたころ、店の入口付近でうろつくリクルートスーツ姿の男性を発見。彼が見据えていたのはどうやら店主のようだった。店主はいかにもという感じで、なにわ節が似合いそうな腰に紺の前掛けを巻いていた、まさに若大将という言葉がよく似合う雰囲気の持ち主だった。
スーツ男性に気づいたそんな店主が気にかけた様子で一言発する。ごめんなさい、今お店が立て込んでて。よかったら座ってお待ちくださいね。意外にも行き届いた接客能力をおそらく面接に来ていたのだろう彼にも発揮していた。そりゃそうか。こんな人気店の店主だから、目配り心配りのきっちりできる人だ。私はすでに配膳されていた目前の麦とろカツ膳をよそに感心していた。
そして、いよいよ面接開始の時間が来たようだった。店主がタオルで手際よく手を拭くと「ごめん、ごめん」と言って腰掛けているスーツ男性に話しかけていた。お待たせしました、今から面接を始めます。あぁやっぱり、そうだったか彼は面接だったか。もはや十中八九目に見えている予想が当たって安堵する私。しかし、異変はすぐさま訪れた。「あのー」「えのー」「あっのー」
ん?スーツ生の様子がおかしいぞ。さっきから全然会話らしい会話が耳に入ってこない。私の食事も喉を通らなかった。小規模な飲食店であっても、面接は面接だ。雇用主と労働者の、金銭と時間をかけた真剣勝負であることに変わりない。
そして、私がしばし混乱していると、嘘みたいな言葉が店主から放たれた。
「ごめん、ほんまごめんなぁ、さっきから君の言ってることが全然わからへんのやぁ」
私自身、こういう言葉を人同士の会話で聞いた経験がなかったので激しく動揺した。
全然関係のない赤の他人だが、真面目な見た目で、真面目に、自分の中にある言葉を必死に繋ぎ止めようとしている彼をみて涙しそうになった。
がんばれ少年。
そして、年の離れた妹もいるらしいな。
がんばれ21歳。
君の諦めない心がある限り、
君を欲する場所は必ず存在する。
爪楊枝をいつもより多めに噛み締めながら、私は店を後にするのだった。