書くザトウクジラ

人類の幸せから、仕事の愚痴まで。

宅配ボックスに荷物を閉じ込めて24時間が経過した

 

 

わたしだ。10分だ。10分でこの男の悲しき物語を綴ろう。誰よりも早く帰りたかった月曜日。だが、ふたを開ければ30分も残業しているではないか。やりたかったことも終えていない。ええい。明日に賭けるか。


半ば強引に席を立った。今日は万年筆が届く日。心は年甲斐もなくトキメいていた。漆黒のビジネス衣を脱ぎ捨てた彼に迷いはなかった。あとは安全にバスに乗り家路につくだけ。


事件は玄関に到達する直前で起こった。

ポストに投函されていた不在通知に記載されている4桁の番号を打ち込むと、宅配ボックスが開く仕組みだった。宅配が届いたときのいつものルーティンだ。目新しいことは何もない。開いた。当然だ。宅配員が正確に番号を書いてくれているからだ。だが、いつも通りの日常で悲劇は起こった。


万年筆とインクの他に、2Lの水✕2ケース(のべ12本)も同じボックスに入れてあるようだった。一つのボックスにまとめてもらえるのは、異なる種類のボックスをいちいち開ける手間が減り、非常にありがたかった。


何を思ったのか、私は、先に重量の軽い万年筆とインクのセットを上階の自分の部屋に一旦避難させたのだ。

 

会社から帰ってきた直後のことであり、勤務疲れも影響して、分担して上階まで持ち運ぶというアイデアに至ったのである。重量の重い水は最後のほうがいいと直感で思った。


どうしたことか、私は万年筆を上階まで持ち上げる際に、暗証番号つきボックスを再ロックさせてしまったのである。もちろん、計12本の水をボックスに閉じ込めたままで。無意識咄嗟のロックだったので、暗証番号を把握していない。

 


このままボックスの中で水が朽ち果てていくのが先か。消防緊急時、その反動で中身が破裂するのが先か。

 

 

事件が起きて24時間経過した今夜。

こんな妄想をしている場合ではないと、眠い目をこすり今日も布団につく。目が覚めたら、開封できる保障はどこにもないというのに。